「庄内パラディーゾ―アル・ケッチァーノと美味なる男たち」 一志治夫(いっしはるお)著 文芸春秋 発行を読んだ。
イタリアンレストランの「アル・ケッチャーノ」のオーナーシェフ奥田政行氏と言えば、地元庄内では知らない人がいない程の有名人です。(もしご存知無い方は「奥田政行」で検索してみてください)
イタリアンシェフとしての才能はもとより、食を通して生まれ故郷の活性化、特に在来野菜を通じて農業の振興に力を注いでおられ、その活動力には目を見張るものがあります。
でも私もその程度知識しかありませんが(;^_^ A
で、読んだ本の中に、奥田シェフをよく知る人物として、庄内町にある鯉川酒造の佐藤社長のくだりがあります。その中で著者が佐藤社長に「庄内から全国へ情報発信するときに核となる人物はやはり奥田さんですね?」と振ると「いやそれは、山澤さんだと私は思っています」と言下に否定したと書いています。
山澤さんって誰?と思う方も多いのではないでしょうか?
庄内町にあるハーブ研究所SPUR(スパール)の代表である山澤清さんです。
まあ、たま?に山形新聞や荘内日報の地方紙に載るくらいで、地域では目立った活動はしていませんが、全国的にはその分野で知る人ぞ知るといった感じの有名人だそうです。
山澤さんは内陸の出身ですが、庄内の自然をこよなく愛し守ろうとしています。
本来、農業の効率を上げるための農機具販売や農法を教えるエンジニアでしたが、農薬を5年も撒いたらそこに自然が無くなっていることに気づき、自分が普及させている農法に疑問を感じ転職。
その後、研究を重ね無農薬でオーガニックのハーブ栽培の先駆者として循環型の有機栽培を確立。その無農薬で有機栽培したハーブをもとに基礎化粧品を開発、製造するかたわら、絶滅しそうな在来のキカラスウリの栽培や、和ガラシ、川シジミなどの動植物の種の保存も手がけています。
その行動力も奥田シェフに勝るとも劣りません。
山澤さんも洋食の修業をしたこともあり、奥田シェフも師と仰ぐ人なんだそうです。
山澤氏の化粧品に対する持論は
「健康な大地には無数の微生物がいて土を豊かにしています。人の肌も大地と同じで無数の常在菌が皮膚を守ってくれている。ケミカルな化粧品は、農薬と同じように皮膚の常在菌を殺してしまいます。常在菌を殺さない化粧品とは、食べ物と同じくらい安全でなければならない。」
なるほど。
この本を読んでちょっと力を戴いたような感じがします。
そこで有機栽培に関心をもち、ネットで調べているうちに「奇跡の林檎」に出くわしました。
数年前にNHKのプロフェッショナエルという番組に取り上げられたそうです。
で、「奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録」石川 拓治 (著), NHK 「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班 (監修) の本を読みました。
まっとうな植物はその辺に置いておくと、腐るのではなく水分がなくなって枯れるのだそうです。
それが、今の野菜だったり果物をそのまま放置しておくと腐って異臭を発してきます。
枯れるというのは果物だったらドライフルーツのようにシワシワになるが香りは残して小さくなっていく……。んむむ、確かに。
青森の林檎農家 木村秋則さんのリンゴは放置すると、まさにこの枯れて行く林檎なんだそうです。
どうやって作っているかというと、「無農薬&無肥料」。……それじゃ、ほったらかしかよ?
ところが、リンゴは年に何度も農薬を撒かないと実らないほど虫や病気に侵されやすいのだそうで「無農薬では絶対に無理!」というのが常識なんだそうです。
園芸をされている方でしたらリンゴの木がバラ科といえば少しは頷けるのではないでしょうか?
バラはマメに消毒をしないと大きな虫から小さな虫、病気までついて大変ですよね。
農薬を使わなければその分管理が大変になる。農薬や化学肥料は農業を工業に近づけるものでしょう?
それを7年間も収穫のない状態でやり遂げた。最後には成功したからよかったが、これが成功しなかったらタダの変人で終わったことでしょう。
この信念を貫き通す実行力は、前に書いたハーブ研究所の山澤氏に共通していると私は思います。
今回改めて「自然」とは…ということを考えさせられました。
本来は人間もひっくるめての自然界なのでしょうが、人間があまりにも自分勝手なことをやりすぎる。その結果バランスを崩していると思います。
バランスが崩れるとバランスを取ろうとするのが自然界です。
戦後60年余り、高度成長の過程の中で人は便利や効率化を求めて農薬や色々な化学物質を使って来ました。
今ではそれが当たり前で、疑問すら感じていない世の中です。
いや、多くの人は気づき始めていますが、今更不便な世の中(生活)に戻れないし、また化学や技術が改善してくれるだろうと他力本願的な期待をしているのかも知れません。
同じ戦後60年でも、虫などは何世代もの世代交代の中で進化しこの変化にも順応してきています。(殺虫剤で容易に死なくなった虫など。※ショウジョウバエを50年間暗室で1400世代飼育した研究報告などがあります。人間に換算すると3~4万年だそうです。)
逆に変化に順応出来ない動植物は殆ど絶滅しています。
人間が化学物質を生活の中で当たり前の様に使うようになってから約60年、まだせいぜい3世代目です。
生物は強い物が生き延びるのが掟。それまで弱いものが淘汰されていく過程を考えると「コワイ」とだけでは済まされないのではないでしょうか?
ハーブ研究所スパールの山澤清さんは、庄内の田舎町でそのことを約30年も前に見抜いて行動していたのです。
読み返してみると、我ながら取り留めない…(^_^;)